Lose




目に入るのは、赤、紅、朱。

それは萌える炎のそれであり、炎が映った空であり、逃げまどう人々から流れる鮮血のそれであった。

剣戟の音が近く、遠く聞こえる場所で一人の少女は佇んでいた。

目の前にある瓦礫と化した家はほんの少し前まで少女に暖かい温もりをくれていた場所だった。

父がいて、母がいる。

小さな優しい少女の世界のすべて。

それは突然にやぶられ、壊された。

娘を庇って隠した父と母は動かぬ躯となって瓦礫の下にいる。

いとも簡単に振り下ろされた刃一度で少女を包むものはすべて失われ、たった一人という現実味のない事実だけが残される。

「・・・・うさん・・・・」

こぼれ落ちた声はひどく掠れて、ほがらかな笑い声を奏でていたそれと、とても同じとは思えない。

「おとう・・・さん・・・・おかあさん・・・・」

すがるような声に答える者はない。

はじめて、少女は張り付いていた表情をゆがめた。

深い、深い苦痛に。

理解したのだ。

彼女の現実を、失われたものを。

「いやあああああああ!!」












ガバッ!

毛布を跳ね上げてクレオは起き上がった。

喉に悲鳴を上げた感触が残っている。

荒れた息を整えるように何度も息を吸いなおしながらクレオはなおも漏れそうになる声を抑えるために唇を噛んだ。

(今頃・・・・!)

赤い夢は昔の記憶。

幼い頃、生まれ育った村が戦乱に巻き込まれた時のクレオ自身の記憶だった。

昔はよくみた夢だったが、最近はずっと見なくなっていた夢。

それをなぜ見たのか、原因はわかっているからクレオは深く息をついた。

トンットンッ・・・・

「クレオ、入るぞ?」

断りを入れておきながら返事をする間もなく入ってきた青年にクレオは苦笑した。

「礼儀をわきまえるのか、無視すんのか、はっきりしな。パーン。」

入ってきた青年、パーンは戸口に立ち止まって困ったように頬を掻いた。

「すまん。」

「いいよ。心配してくれたんだろ?」

パーンは複雑そうに頷いてクレオの側までやってくる。

「悲鳴が聞こえた。」

そう言われてクレオは顔をしかめた。

「そんなに大きな悲鳴だったかい?」

「いや・・・・」

それだけ言って黙ってしまうパーンに、クレオはため息をついた。

昔からパーンはこうなのだ。

普段は蹴飛ばしても起きないような鈍感野郎のくせに、マクドール家にいた頃もクレオが上げる悲鳴にどんな真夜中でも飛んできた。

で、しかも飛んできて何をするわけでもなく困ったように立っているだけなのだ。

そんなパーンを見て、何のために駆けつけてきたんだろうと苛立った事もしばしばあった。

・・・・でも、何も言わないパーンに救われたのも事実。

どんな夢を見たかも聞かない。

ただ恐怖が薄れたクレオに追い出されるまで一緒にいる。

しかし今日はしゃべった方が楽そうだ。

夢を見た引き金は2人同時に体験した事だから。








―― 昨日、グレミオが死んだ








ずっとマクドール家で共に過ごしたグレミオがカイを助けるために。

グレミオに迷いは一片も無かった。

カイを護るため、そのために何のためらいもなく命をかけたのだ。

「パーン・・・・」

側の壁に寄りかかっていたパーンは常に話しかけてこないクレオが声をかけてきたことに驚いたようにパーンは目線で問いかけてくる。

その目を見ないままクレオは言った。

「・・・・怖いんだよ・・・・」

グレミオを失って残されたマントの側に膝をついたカイの背中に、家の残骸を前に立っている自分が重なった時、気がついてしまった。

自分が何を恐れているのか。

「怖いんだよ・・・・!坊ちゃんを、仲間を失うのが!また、何もかも失うのが!なにより・・・・」

クレオはそこまで言って嗚咽に言葉を詰まらせた。

喉をひきつるような感覚にむせびながら、クレオは絞り出すように言った。

「あんたすら失うことが・・・・!」

言ってしまった後、全身に走った恐怖にクレオは両肩を抱いて縮こまった。

一度すべてを失って、その後手に入れた暖かい関係がマクドール家の人々であり、そしてパーンなのだ。

それがテオと決別し、グレミオが死に、一人一人こぼれていく。

いつかあの時のようにすべてを失ってしまうかも知れない・・・・。

それがどうしようのなく怖かった。

涙よりも震える体を押さえようと必死になっているクレオの頭に、ためらいがちにぼすっと手が置かれた。

びっくりして顔を上げると、やはり困ったようなパーンが慌てて手を離す。

「・・・・俺はテオ様のためなら死んでもいいと思っていた。今は坊ちゃんが目指していることのために命をかけても良いと思っている。」

そんな事をはわかっていると呆れたクレオに、パーンは言葉を探すように考え考えしながら言った。








「だが、たぶん・・・・俺は死んでも、体がなくなっても、ここが居場所だと思う。」








ここ、と言ってパーンが指さしたのは今いる場所。

それが解放軍なのか、自分の側なのか計りかねて、結局クレオは両方と判断した。

―― なんて馬鹿正直な奴、と思う。

口先だけでも『死なない』と言えばそれでクレオは一時安心したかもしれないのに。

・・・・でも一時の安心より、怖さを含んだ約束の方がいい。

魂になっても戻ってくると。

クレオは低く笑い出した。

「?」

「なんでもないよ。まあ、でも幽霊になっちまったらおいしい物も食べられないから、なるべく生きてな。」

そう言われてパーンは真面目に頷いた。

「うまい物が食えないのはごめんだ。せいぜい腕を磨く。」

「そうしな。私も幽霊相手じゃ張り飛ばしがいがないしね。」

「・・・・・・・・・・お前、そのために俺に死んで欲しくないのか?」

「さあね。さ、さっさと自分の部屋に帰って寝な。私ももう寝るんだよ。」

なんとなく釈然としない顔のパーンを追い出してクレオは再度ベットに潜り込んだ。

そしてポツリと思い出したように呟いた。

「そうそう。私がもし先に死んでも、ここへ戻ってくるよ。・・・・でないと、馬鹿やってるあんたを張り飛ばしてくれる奴がいなくなっちまうからね・・・・」
















                                                  〜 fin 〜








― あとがき ―
幻水創作第2段。やっぱり、クレオ〜〜〜〜(><)
実は結構マイナーかもしれないこの2人ですが、私は大っっっっ好きです!!
・・・・と、力説したわりにうちのパーンはこの直後テオ様にや殺られました(泣)
いなくなった後のクレオの切ない事、切ない事。
もう、ずっとだーーーーーっと涙を流しながらプレイしました。
その罪滅ぼしじゃないけど、こんな創作を1本。
シリアスな夫婦漫才といったところです。